相馬市伝承鎮魂祈念館の守りびと

太平洋を望む小さな公園の一角に、白壁の建物が建っている。

瓦葺きの切り妻屋根が大きな翼のように広がり、この建物をやさしく包み込んでいるようでもあり、今にも飛び立とうとしているようでもある。

相馬市伝承鎮魂祈念館外観
相馬市伝承鎮魂祈念館外観 2019年9月 福島県相馬市

相馬市伝承鎮魂祈念館が開館

「相馬市伝承鎮魂祈念館」は、福島県北部に位置する相馬市の原釜地区に、2015年(平成27年)の4月に開館した。

原釜尾浜海水浴場の北側にある笠岩公園。
その一角に建つ平屋の建物で、専用の駐車場が8台程度と、小さな建物である。

相馬市伝承鎮魂祈念館正面玄関
相馬市伝承鎮魂祈念館正面玄関 2019年9月 福島県相馬市

ふるさと相馬

「ふるさと相馬」と歌われた地である。
城下町であり、「相馬野馬追いまつり」の伝統行事はこの地で発祥し、今に引き継がれている。

漁業や農業も盛んで、これらの日々の暮らしの中から生まれた民謡や祭りが、長い時代を超えて多くの人に愛され続けている。

また、松川浦などの風光明媚な場所は、多くの観光客を楽しませている。

甚大な被害を受けて

東日本大震災の津波により、尾浜・原釜地区や磯部地区は、甚大な被害を受けた。

このあたりは、住宅をはじめ商店が軒を並べ、観光客のための旅館なども多く、結構な賑わいを見せていた地域である。

今では、嵩上げになっており、店舗や住宅などは建たないため、人通りも少なく寂しいとのことである。

被災者や遺族の心に寄り添う

この施設は、こうした歴史と文化を継承してきたこの地の震災前の原風景を、写真展示などで後世に残すことにより、被災者や遺族の心に寄り添い、そして拠り所となるように、との思いから建設されたとのことである。

やがて、震災前の相馬市を知らない人も多くなるだろう。
この施設は、こうした人達に、歴史と文化を継承してきたかつての姿を伝えようとしている。

相馬市伝承鎮魂祈念館展示室
相馬市伝承鎮魂祈念館展示室 2019年9月 福島県相馬市

さらに、震災当時の写真展示や映像を通し、震災の教訓や経験などを、次代を担う子供達に伝えていく場にもなっている。

今では多くの方に知ってもらうようになり、学校の課外活動や様々な団体・グループの訪問があり、研修会や学習会などで利用されているという。

震災の犠牲者の名札

玄関を入り、ホールの正面には、震災で犠牲になった方の名札が掲示されている。

相馬市伝承鎮魂祈念館ホール
相馬市伝承鎮魂祈念館ホール 2019年9月 福島県相馬市

こんなにも多く方が犠牲になったのかと、切ない気持ちになってくる。

避難はできなかったのだろうか。命が助かる方法は無かったのだろうか。

一人ひとりの状況は様々であっただろう。
この人達が、今を生きる人に何かを伝えられるならば、何を語ってくれるだろうか。

11月5日は「津波防災の日」であり、「世界津波の日」でもある。
突然やってくる災害に、どう向き合うかを考える機会にしたいものである。


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屋外の小高い場所には慰霊碑があり、その石碑にも犠牲者の名前が刻まれている。

相馬市伝承鎮魂祈念館慰霊碑
相馬市伝承鎮魂祈念館慰霊碑 2019年9月 福島県相馬市

「震災伝承施設」として登録

ホールの壁に、一枚の登録証が額に入れて飾られている。
この施設が「震災伝承施設」として登録を受けたという証書である。

相馬市伝承鎮魂祈念館登録証
相馬市伝承鎮魂祈念館登録証 2019年9月 福島県相馬市

登録の日付は平成31年3月28日とあり、今年の春だから、まだ新しい取り組みのようである。

また、発行者は「震災伝承ネットワーク協議会会長」となっている。
正直なところ、認識していなかった名前である。

「震災伝承ネットワーク協議会」とは

調べてみると、「震災伝承ネットワーク協議会」は、国土交通省東北地方整備局と青森、岩手、宮城、福島の4県及び仙台市で構成されていて、協議会のホームページにその設立の目的が記されている。

これらの地域において、これまでに整備された施設や、これから整備が検討される震災伝承施設等を含め、震災伝承をより効果的・効率的に行うためにネットワーク化に向けた連携を図り、交流促進や地域創生、さらに地域の防災力強化に資することを目的として設立された。(要旨)

<震災伝承ネットワーク協議会>

「震災伝承施設」とは

「震災伝承施設」として登録される施設の内容について、ホームページに以下の5項目(※)が定められている。(※ 6項目→5項目 2021年1月5日訂正)

「震災伝承施設」とは、東日本大震災から得られた実情と教訓を伝承する施設で、以下のいずれかの項目に該当する施設です。
 ①災害の教訓が理解できるもの
 ②災害時の防災に貢献できるもの
 ③災害の恐怖や自然の畏怖を理解できるもの
 ④災害における歴史的・学術的価値があるもの
 ⑤その他(災害の実情や教訓の伝承と認められるもの)

<震災伝承ネットワーク協議会>

また、観光経済新聞の電子版(2019年4月12日)によると、登録発表当時の情報が以下のように掲載されている。

 震災伝承施設は自・他薦を含め、公募。昨年12月3日~今年1月31日の第1次募集では206件の応募があり、協議会で検討し、192件を決めた。
 登録施設数は青森2件、岩手70件、宮城100件、福島20件。津波到達地点であることを記す看板や石碑、公園や神社、追悼施設、震災遺構などが登録された。
 施設については、訪問のしやすさや理解のしやすさなどで3段階に分類。192件のうち、31件については、来訪者が無料で利用できる駐車場を備え、震災展示に関する案内員や語り部活動、映像上映による展示などがある「第3分類」に区分した。

<観光経済新聞>

登録証には「第3分類 福島 第3-004号」との記載がある。
「相馬市伝承鎮魂祈念館」は、「第3分類」に該当していて、その役割がきわめて高いことを示している。

相馬市伝承鎮魂祈念館外観
相馬市伝承鎮魂祈念館外観 2019年9月 福島県相馬市

「相馬市伝承鎮魂祈念館」の守りびと

「福島県では4番目の登録として記載されているんですが、いわき市よりも早くに受付されたんですよ」

事務室にいた婦人の職員が、誇らしげに説明してくれた。

いわき市に「第3分類」の施設が3か所あり、福島県での登録番号が南の施設から順番に付されたのだという。説明されなければわからないことである。

展示されているものからは、多くのことを学ぶことができる。
しかし、展示されているものを通して、語ってくれる人がいることはありがたいものである。
その語りの交流は、自分が想像するものと現実との隙間を埋めてくれるものであり、そのことによって、さらに深く知ることができるのである。

この施設にいる数名の婦人職員が、あるときは映像の上映をしたり、あるときは語り部となって展示の説明をしたり、この施設に込められた多くの人の思いを胸に、この重要施設の守りびととして働いている。

世界へ未来へ

この施設は年末年始だけ休館し、あとは年中無休とのことである。

まさに航行する船舶の道しるべとなる灯台のように、多くの人の拠り所となり、地域の安全・安心を啓発しながら、未来を生きる子供達へ伝えていく役割を担っている。

笠岩公園のベンチ
笠岩公園のベンチ 2019年9月 福島県相馬市

ここから発信される希望の灯りが、はるか遠く世界へ、そして未来へ届くことを祈りたい。

そして、子供達のその小さな命に刻まれた願いが、やがて大空に羽ばたいていく事を祈りたい。

笠岩公園のベンチ
笠岩公園のベンチ 2019年9月 福島県相馬市

<相馬市伝承鎮魂祈念館>
住所:〒976-0021 福島県相馬市原釜大津270
電話番号:0244-32-1366
開館時間:9時~17時(入館無料)
休館日:12月29日~1月3日
専用駐車場:8台(無料) ※公園の駐車場(無料)が別にあります

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