太平洋を望む小さな公園の一角に、白壁の建物が建っている。
瓦葺きの切り妻屋根が大きな翼のように広がり、この建物をやさしく包み込んでいるようでもあり、今にも飛び立とうとしているようでもある。
相馬市伝承鎮魂祈念館が開館
「相馬市伝承鎮魂祈念館」は、福島県北部に位置する相馬市の原釜地区に、2015年(平成27年)の4月に開館した。
原釜尾浜海水浴場の北側にある笠岩公園。
その一角に建つ平屋の建物で、専用の駐車場が8台程度と、小さな建物である。
ふるさと相馬
「ふるさと相馬」と歌われた地である。
城下町であり、「相馬野馬追いまつり」の伝統行事はこの地で発祥し、今に引き継がれている。
漁業や農業も盛んで、これらの日々の暮らしの中から生まれた民謡や祭りが、長い時代を超えて多くの人に愛され続けている。
また、松川浦などの風光明媚な場所は、多くの観光客を楽しませている。
甚大な被害を受けて
東日本大震災の津波により、尾浜・原釜地区や磯部地区は、甚大な被害を受けた。
このあたりは、住宅をはじめ商店が軒を並べ、観光客のための旅館なども多く、結構な賑わいを見せていた地域である。
今では、嵩上げになっており、店舗や住宅などは建たないため、人通りも少なく寂しいとのことである。
被災者や遺族の心に寄り添う
この施設は、こうした歴史と文化を継承してきたこの地の震災前の原風景を、写真展示などで後世に残すことにより、被災者や遺族の心に寄り添い、そして拠り所となるように、との思いから建設されたとのことである。
やがて、震災前の相馬市を知らない人も多くなるだろう。
この施設は、こうした人達に、歴史と文化を継承してきたかつての姿を伝えようとしている。
さらに、震災当時の写真展示や映像を通し、震災の教訓や経験などを、次代を担う子供達に伝えていく場にもなっている。
今では多くの方に知ってもらうようになり、学校の課外活動や様々な団体・グループの訪問があり、研修会や学習会などで利用されているという。
震災の犠牲者の名札
玄関を入り、ホールの正面には、震災で犠牲になった方の名札が掲示されている。
こんなにも多く方が犠牲になったのかと、切ない気持ちになってくる。
避難はできなかったのだろうか。命が助かる方法は無かったのだろうか。
一人ひとりの状況は様々であっただろう。
この人達が、今を生きる人に何かを伝えられるならば、何を語ってくれるだろうか。
11月5日は「津波防災の日」であり、「世界津波の日」でもある。
突然やってくる災害に、どう向き合うかを考える機会にしたいものである。
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屋外の小高い場所には慰霊碑があり、その石碑にも犠牲者の名前が刻まれている。
「震災伝承施設」として登録
ホールの壁に、一枚の登録証が額に入れて飾られている。
この施設が「震災伝承施設」として登録を受けたという証書である。
登録の日付は平成31年3月28日とあり、今年の春だから、まだ新しい取り組みのようである。
また、発行者は「震災伝承ネットワーク協議会会長」となっている。
正直なところ、認識していなかった名前である。
「震災伝承ネットワーク協議会」とは
調べてみると、「震災伝承ネットワーク協議会」は、国土交通省東北地方整備局と青森、岩手、宮城、福島の4県及び仙台市で構成されていて、協議会のホームページにその設立の目的が記されている。
これらの地域において、これまでに整備された施設や、これから整備が検討される震災伝承施設等を含め、震災伝承をより効果的・効率的に行うためにネットワーク化に向けた連携を図り、交流促進や地域創生、さらに地域の防災力強化に資することを目的として設立された。(要旨)
<震災伝承ネットワーク協議会>
「震災伝承施設」とは
「震災伝承施設」として登録される施設の内容について、ホームページに以下の5項目(※)が定められている。(※ 6項目→5項目 2021年1月5日訂正)
「震災伝承施設」とは、東日本大震災から得られた実情と教訓を伝承する施設で、以下のいずれかの項目に該当する施設です。
<震災伝承ネットワーク協議会>
①災害の教訓が理解できるもの
②災害時の防災に貢献できるもの
③災害の恐怖や自然の畏怖を理解できるもの
④災害における歴史的・学術的価値があるもの
⑤その他(災害の実情や教訓の伝承と認められるもの)
また、観光経済新聞の電子版(2019年4月12日)によると、登録発表当時の情報が以下のように掲載されている。
震災伝承施設は自・他薦を含め、公募。昨年12月3日~今年1月31日の第1次募集では206件の応募があり、協議会で検討し、192件を決めた。
<観光経済新聞>
登録施設数は青森2件、岩手70件、宮城100件、福島20件。津波到達地点であることを記す看板や石碑、公園や神社、追悼施設、震災遺構などが登録された。
施設については、訪問のしやすさや理解のしやすさなどで3段階に分類。192件のうち、31件については、来訪者が無料で利用できる駐車場を備え、震災展示に関する案内員や語り部活動、映像上映による展示などがある「第3分類」に区分した。
登録証には「第3分類 福島 第3-004号」との記載がある。
「相馬市伝承鎮魂祈念館」は、「第3分類」に該当していて、その役割がきわめて高いことを示している。
「相馬市伝承鎮魂祈念館」の守りびと
「福島県では4番目の登録として記載されているんですが、いわき市よりも早くに受付されたんですよ」
事務室にいた婦人の職員が、誇らしげに説明してくれた。
いわき市に「第3分類」の施設が3か所あり、福島県での登録番号が南の施設から順番に付されたのだという。説明されなければわからないことである。
展示されているものからは、多くのことを学ぶことができる。
しかし、展示されているものを通して、語ってくれる人がいることはありがたいものである。
その語りの交流は、自分が想像するものと現実との隙間を埋めてくれるものであり、そのことによって、さらに深く知ることができるのである。
この施設にいる数名の婦人職員が、あるときは映像の上映をしたり、あるときは語り部となって展示の説明をしたり、この施設に込められた多くの人の思いを胸に、この重要施設の守りびととして働いている。
世界へ未来へ
この施設は年末年始だけ休館し、あとは年中無休とのことである。
まさに航行する船舶の道しるべとなる灯台のように、多くの人の拠り所となり、地域の安全・安心を啓発しながら、未来を生きる子供達へ伝えていく役割を担っている。
ここから発信される希望の灯りが、はるか遠く世界へ、そして未来へ届くことを祈りたい。
そして、子供達のその小さな命に刻まれた願いが、やがて大空に羽ばたいていく事を祈りたい。
<相馬市伝承鎮魂祈念館>
住所:〒976-0021 福島県相馬市原釜大津270
電話番号:0244-32-1366
開館時間:9時~17時(入館無料)
休館日:12月29日~1月3日
専用駐車場:8台(無料) ※公園の駐車場(無料)が別にあります
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